民事信託と税金対策
昨今の生前対策ブームにより、高齢者の認知症対策、相続対策として民事信託を利用される方が増えています。民事信託は、契約者の財産について、ご家族に管理、運用、処分を託す際の契約のことをいい、信託銀行のような営利目的ではありません。財産の所有者(委託者)が信託を設定し、家族などが受託者として託された財産の管理運用を行います。なお、信託したことにより利益を得る者を受益者といいます。
比較的新しい制度であるがゆえ認識不足からの誤解も多く、節税対策ができるのではとお考えの方がいらっしゃいますが、民事信託は、柔軟な財産管理によって円滑な財産継承ができるというものであって、民事信託自体に節税効果はありません。
民事信託は比較的自由な財産設計が可能である反面、税金計算が複雑であったり、受託者の責任範囲が広かったりというデメリットもあります。
民事信託における税金は、状況により課税される人や計算が異なり、その都度税金の計算が必要となります。どの税金が該当するかは、誰が利益を受けるかによって変わります。例えば、受益者が死亡した場合は相続税、受益権を売却した場合には所得税と住民税、贈与した場合は贈与税という具合です。
課税内容一例
【受益者】信託財産から生じる所得税、賃貸アパートを売却した場合は譲渡所得税等
他益信託(委託者≠受益者)委託者に所得税の課税なし
自益信託(委託者=受益者)委託者に所得税の課税あり
【受益権を引き継いだ場合】相続税
【受益者】贈与税
他益信託(委託者≠受益者)受益者に贈与税の課税あり(例外あり)
自益信託(委託者=受益者)受益者に贈与税の課税なし
【信託終了時に受益者以外の人が信託財産を取得した場合】贈与税
他益信託(委託者≠受益者)新たに贈与税の課税なし
自益信託(委託者=受益者)新たな信託財産の所有者に贈与税の課税あり
【信託財産の不動産を受託者から引き継いだ場合】相続税
不動産を信託財産とする場合、所有権移転登記を行うことになりますが、実質的な所有権移転はされないため、委託者、受託者、受益者の誰にも不動産取得税は課税されません。
以上の事から、民事信託では節税対策はほぼできないといっても過言ではありません。民事信託は、認知症対策や財産の継承について自由な設計をすることができますが、“受益者課税の原則”といって、基本的に受益者に課税されることとなり、節税対策とはならないのです。民事信託をご検討される際は、税金のリスクも併せて相続の専門家に相談しましょう。
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